自然の中で革を持つ女性

本革はサステナブル?CxC Leatherが考える皮革産業の環境問題と新素材マッシュルームレザー

最近よく耳にする「サステナブル」。

一度は聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?

サステナブル(Sustainable)とは、sustain(持続する)とable(可能な)を組み合わせたもので、「持続可能な」という意味を持つ言葉です。

元々は「維持できる」、「耐えうる」、「持ちこたえる」といった意味で使われていた言葉ですが、近年、地球環境の持続可能性、文明や経済の持続可能性という意味で一般的に用いられる言葉となりました。

SDGsと同様に、環境への負担を少なくするといった意味合いで用いられるケースが多い印象です。

※SDGsとは、Sustainable Development Goalsの頭文字からくる言葉で、持続可能な開発目標を指します。

興味のある方は以下のサイトを参照くださいね。

参考:外務省|SDGsとは?

スイスアルプスの牧草地にいる牛が草を食べる

私たちが属する「革の業界」では、畜産が出す温室効果ガスの問題や動物愛護の観点からみた問題、薬品の使用による環境汚染の問題など多くの問題が提起され、さまざまな取り組みがおこなわれています。

これらの問題は決して小さなものではなく、社会全体で取り組むべき問題になっており、私たちのような小さな革工房でも無視して運営を継続することはできません。

CxC Leatherでも他人事ではなく、革の仕事に携わる事業者として、革製品の環境問題に取り組んでいます。

革は食肉文化の副産物

シュリーの革

まず、畜産の副産物である革を使用することは環境負荷につながるのか?という問題に対して、現時点でのCxC Leatherの答えは「No」です。

我々が扱う「革」は前述の通り、畜産から出る副産物である動物の皮を利用しています。
つまり、そのままでは利用価値のないもの、廃棄せざるを得ないものです。

仮に動物の皮を扱うのはかわいそうだから利用するのをやめようとなった場合、皮は焼却処分するしかなくなり、更に環境への負担が懸念されます。

つまり食肉文化が継続することを前提とするなら、廃棄するしかない皮を革へ鞣し、衣料やバッグなどの素材を作ることはサステナブルにつながるわけです。

とくにCxC Leatherが採用するヨーロッパを中心としたトップレベルのタンナー(革を鞣す業者)は、環境への配慮も怠っていません。

伝統の植物性のタンニンのみを使用して皮から革へ鞣す技法で作るヌメ革はもちろん、ドイツ発祥のクロムレザーであっても厳格な基準により、工業排水に一切有害物質を含ませないなど環境に配慮した取り組みがおこなわれています。

CxC Leatherではサステナブルの取り組みの一つとして、環境に負荷を与える大量生産で作られた工業製品の革は使用していません。

使用しているのは、厳格な基準を持つヨーロッパの一流のタンナーで鞣され、自然の土に還せる革のみです。

品質はもちろんのこと、環境へ配慮していることも重要な採用基準と考えています。

副産物以外の革は使用しない

革は食肉文化の副産物と記載をしていますが、残念ながらすべての革が副産物ではありません。

一般的にエキゾチックレザーと呼ばれるワニやヘビなど爬虫類の皮、エイやサメの魚類の皮、高級なコートなどに使用される毛皮などは高級材料として人気があります。

しかしこれらの皮は食肉による副産物ではなく、「革」にすることを優先して作られた素材です。

嗜好を優先するものはサステナブルとは言い難く、CxC Leatherでは現在エキゾチックレザーや毛皮類の革はラインナップに加えておらず、今後も使用の予定はありません。

※CxC Selectなどで一部使用しているクロコダイル柄の革も、イタリアのETRURIA社で作られるタンニン鞣しされた牛革に型押しを施した革を使用しています。

大量消費をしない取り組み

副産物として取れた素材は好きなだけ使ってもいいのか?

CxC Leatherの答えはこれも「No」です。

食肉文化の副産物として得た素材であっても、命をいただいているものに変わりはありません。

生きる糧としていただく食材に感謝する気持ちを、取り扱う革にも持ちたいと考えています。

CxC Leatherでは、大量消費や大量生産を目的としたコストを重視した製品作りは一切いたしません。

一つ一つお客様のご希望に応じた組み合わせで特別な商品を作り、愛着を持って長くお使いいただきたいと考えています。

オーダーメイドを主体とした製作を継続しているのも、余計な材料、在庫を持たないといったサステナブルの取り組みの一つです。

CxC Leatherが注目している次世代の革

CxC Leatherの本革がサステナブルという考え方は、畜産の継続が前提にあります。

地球を取り巻く環境問題は全世界で取り組み問題であることは間違いありません。

場合によっては、畜産を縮小させていくことも環境問題の改善にとっては必要なことかもしれません。

未来の革、マッシュルームレザー

畜産を縮小させよう、無くそうという考えに合わせて、衣料やファッション業界を中心に「革」の代替素材の開発もおこなわれています。

有名なところではアメリカの「Bolt Threads(ボルトスレッズ)」、「MycoWorks(マイコワークス)」などが開発したマッシュルームレザーです。

日本では、MYCL Japan (マイセルジャパン)株式会社が、MADE IN JAPANのマッシュルームレザー Myleaの開発、製造、販売を行っています。

キノコの繊維から革を作る
マッシュルームレザーのイメージ

マッシュルームレザーの概要は以下の通りです。

マッシュルームレザーは、きのこの菌糸体を培養して生産される人工レザーで、動物の命を犠牲にすることなく環境への負荷も従来の動物の皮革と比較して、極めて低いことが特徴です。

一般的な合成皮革のように石油由来の原料は使用していませんし、生産工程でも環境に負荷をかけるような化学物質は使用しません。

引用:MYCL Japan株式会社|マッシュルームレザーとは?

         

Bolt Threads(ボルトスレッズ)には、Lululemon(ルルレモン)、Adidas(アディダス)、Gucci(グッチ)などの大企業が投資をおこなっており、開発された素材を投資した企業が採用し始めています。

日本では土屋鞄製造所が、同社のマッシュルームレザーを使ったランドセルやバッグを開発したと話題になりました。

MycoWorks(マイコワークス)もエルメスと共同でマッシュルームレザーを開発、世界初となるマッシュルームレザーのバッグを発売しています。

合成皮革は問題が多い

そもそも以前より革に似せた素材は存在してきました。

合成皮革(合皮・フェイクレザー)と呼ばれる素材です。

本革の代替え素材としてこちらも長らく使われてきている素材です。

ではなぜ合皮ではダメなのか?

答えは現時点で本革に比べて明らかに品質が劣るからと推測できます。

合皮も厳密に言うと合成皮革、人工皮革に分かれるようですが、簡単に言うと化繊布に石油由来の樹脂やポリウレタンを含ませたものです。

この時点でエコ素材ではありません。

合皮のメリットは大量生産が可能で比較的安価で流通できることです。

天然素材の本革とは異なり、工業製品にて品質も安定するのもメリットですが、品質は本革には遠く及びません。

そして最大の弱点は劣化です。

本革は使用と共に光沢などが増すことを「経年変化」と捉えられますが、合皮の場合は明らかに「経年劣化」になります。

表面がひび割れる、ベタベタしてくるなんて経験を一度はされたことがあるのではないでしょうか?

すべての合皮、人工皮がそのような低品質ではなく、技術に進歩で随分品質の良いものもでてきています。

たとえば高級車にも採用される「アルカンターラ」をはじめ、日本を代表する企業である東レが作る人工スエードは、上質で多くのブランドにも採用されています。

スエード以外となると、どうしても見劣りしてしまいますが、今後の技術の進歩により、本革にも劣らない合皮が出てくるかもしれません。

合成皮革よりマッシュルームレザーが注目されている理由

なぜ本革の代替が合皮ではなく、マッシュルームレザーなのか?

それはマッシュルームレザーが100%植物由来の究極のエコレザーであり、生産の工程でも環境に負荷をかけないように作られているからです。

マッシュルームレザーは、まだ開発が始まったばかりの新素材のため、品質や耐久性など未知数な部分があります。

しかし世界的な有名企業が挙って素材の開発、商品化に乗り出していることから、品質の飛躍的な向上が期待できます。

ところがまだまだ大量生産ができるほどの設備は整っておらず、価格は最高級のカーフレザー並みです。

現在は一部の有名企業で流通し始めたばかりの貴重な素材のため、私たちの手に届くまでには時間がかかるとは思いますが、そう遠くないうちに普及してくると感じています。

CxC Leatherオーナーが思う革の未来

CxC Leatherのオーナー夫婦

私達は革小物作りを始めたころより、今までにさまざまな「革」に触れてきました。

そして、より良い素材を追い求めて辿り着いたのが、現在取り扱っている「ブッテーロ」、「ワープロラックス」、「シュリー」です。

どの革も本当に素晴らしく、革を作るタンナーにも「歴史」、「物語」があります。

そういった背景も含めて、たくさんの人に特別な革で作るオーダー商品を届けたいといった気持ちで日々に製作に取り組んでいます。

一個人としてはこれらの革、文化や物語が無くなってしまうのはとても悲しいことです。

その反面で環境問題や動物愛護の問題、などが複雑に絡み合うことも理解しています。

時代の流れ、その時代の倫理観により考えや嗜好も変わっていくとは思いますが、おそらく「0」、「100」のようにはっきりとした線引きをおこなうことは困難でしょう。

人間が生きていくなかで、命をいただく「食物連鎖」が止まることはなく、また止めてしまうことの弊害も出てくるはずです。

その中での副産物として革が生産される限りは、その革を使わせていただければと考えています。

また、「革を愛する人はマッシュルームレザーなどの新素材に否定的なのか?」と問われることもあります。

なかにはそのように感じている革職人もいるかもしれませんが、私をはじめCxC Leatherのスタッフは、むしろ大歓迎と考えています。

技術の革新により本革と同等の素材、それ以上の素材ができる可能性のあることにワクワクしているくらいです。

本革にも負けない素材が低価格で安定的に供給される、しかも品質は均一、そうなれば夢の素材ですよね。

できることなら、新しい会社が生み出す新素材だけではなく、伝統あるタンナーの技術で新素材を鞣すマッシュルームレザーが出てくることを期待しています。

本革に長く愛着を持ってお使いいただくためにメンテナンスサービスを始めます

木製のテーブルに置かれた革を使用するためのクラフトツール

本革の魅力は長い歴史が証明しています。

時代が移り変わろうとも本革はファッションの中心にあり、多くの人々に愛されています。

本革の魅力は、革によっては綺麗な発色をするもの、強靭な耐久力を持つもの、時間と共に経年変化で味を増すものなどさまざまです。

大切なバッグや思い出の品は、定期的にメンテナンスをおこなうことで、世代をまたいで使い続けられるのも魅力の一つでしょう。

CxC Leatherでは今まで特別なアイテムをお届けすることに注力をしてきましたが、今後は特別なアイテムを長くお使いいただけるお手伝いもしたいと考え、メンテナンスや補修を行うサービスを開始しました。

いくら革が丈夫でも金具や生地、パーツの経年劣化はどうしても起こります。

たとえばファスナーのスライダーの外れ、ボタンの緩み、糸切れ、コバ(革の断面)のコーティングが剥がれてしまうなど…。

残念ながら革についてしまった傷や汚れなどを取り除くことは専門外のため、専門業者への依頼となりますが、パーツの交換や再縫製、コーティングの再塗装などは問題なくおこなえます。

基本的に最低限の工賃やパーツ代のみのご請求で気軽にご利用いただける内容となっておりますので、まずはお手持ちの製品がどのような状態なのかをお聞かせください。

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